忘却の勇者

なにを言っているのかわけがわからない。


まだ身体に酸素が行き届いていないのか、立ち上がろうにも手足が震えて思うように身体が動かない。


早く次の一手を打たないと。このままじゃなぶり殺しにされるだけだ。


魔力を練りながら視線をオメガへと合わせる。


身体は動かせなくとも魔法は放てる。饒舌になって隙だらけの今ならいける。


喰らえ……!


術を発動させようとした刹那、左肩に鋭い痛みが走った。


反射的に視線を左に向けると、そこにあるはずの左腕は視界に映ることはなく、代わりに赤黒い鮮血が噴水のように左肩から噴出していた。


状況がわからない脳内に、一周遅れで激痛が警鐘を打つ。


「うあぁぁぁぁああああああ!」


気が狂いそうなほどの凄まじい痛み。


たまらず右手で患部を押えるが、痛みはおろか出血も治まる気配はない。
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