忘却の勇者
このままじゃ死ぬ。
薄れゆく意識の中で、レインはオメガに放とうとしていた氷結魔法を自身の左肩に放った。
傷口は凍りつき、一先ず出血は治まる。
それでも強烈な痛みが消えることはなく、足元に広がった赤黒い血の池が、身に起こった出来事をリアルに伝えた。
「おや、なかなか可愛い声で鳴くじゃないか」
キッと目の前に立つ人物を見上げるが、喉元まで出かかった悪態の言葉を飲み込んだ。
奴の右手が掴んでいる物は、まぎれもなく自身の左腕。
鋭利な切り口からは血が滴り、オメガはうっとりとした表情で切り口から流れる血を舐め取った。
「きさ……まっ」
「息が荒いぞ。大丈夫か? それにしても若き少年の体液は実に甘美だ。鮮度も良くほのかに感じる魔力の味わいがまた食欲をそそる。
太古の昔、魔術師の血は不老不死の効果あるとされ、時の権力者は優秀な魔術師を殺しその生血をすすったという。
君の生血もなかなかのものだ。少し坊やに興味がわいたよ」