忘却の勇者
まるで出血を抑えるかのように集まり始めた炎たち。
なんだこれは?
怪訝な表情のイクト。
その表情の理由は青い炎の謎の動きだけではない。
確実に急所を貫き即死状態のはずのマリの身体が、崩れることなくその場に立ちつくしているのが一番の謎なのだ。
集約した炎が再び散開すると、胸の傷が綺麗に消え去りマリはゆっくりと顔を上げて口元に弧を描いた。
「言ったでしょ。炎があれば十分だって」
「まさか癒しの炎……不死鳥(フェニックス)と契約しているのか!?」
S級契約獣。不死鳥。
青い炎を纏った不死の肉体を持つ幻獣。
その炎は“癒しの炎”と呼ばれ、いかなる傷も病も完全に治癒すると言われている。
幻の契約獣として童話や神話にも出てくるが、現物を見た者は誰もいない。