忘却の勇者
その力を攻撃に転じたら?
例えば“細胞分裂を上限まで強制的に起こさせた”としたら?
なるほど。それならば合点がいく。
細胞分裂に身体がついていけていないのだ。
内側から焼けるような痛みの原因はこれだろう。
癒しの中で死に絶えるとはよく言ったものだ。
だとしたら悠長にしている暇はない。
長期戦ではイクトの有利だと思われたが事情が変わった。
魔物憑きのこの身体は、ある程度の部位が残っていれば自然に治癒することも可能だが、所詮肉体のベースは人間だ。
人間以上の治癒力があるが、それでも限界はある。
このまま癒しの炎の力を受け続ければ、力尽きるのはイクトの方だ。
だがイクトは微笑を浮かべていた。