忘却の勇者
死の足音が一歩また一歩と近づいてくる。
「私と君はあんなに愛し合った仲じゃないか。二人の愛をもっと育んではみないか坊や」
気持ちの悪いことを言う。
レインを腰のポーチに手を伸ばす。
体力も魔力も万策尽きた。もはやオメガと戦う力は残っていない。
残っているのは、空前の灯と化した己の命。
どうせ殺されるのならば……。
決意に満ちた瞳は、ある一点に注がれている。
ドゴォンッという音が近くで鳴り響き、パラパラと氷片が床に落ちる。
音のする方向に視線を向けると、口元を不気味に吊り上げるオメガと目が合った。
本当に気持ちが悪い。視覚に入れただけで吐き気がする。
毒を吐こうにも、言葉を紡ぐ体力さえ惜しい。