忘却の勇者
自分の部下が手も足も出ず、さらには入り口の結界を破かれたというに、魔王は焦っている仕草は見せない。
諦めたのか? それだったら話は早い。
「顔を向けてくれないか、魔王様」
懇願ではなく命令。
聖剣を構え、いつ魔王が襲ってきても対処できるよう全神経を目の前の見えない人物に注ぐ。
魔王は一言も発することはなく、キィーと錆ついた音が奏でながら、ゆっくりと椅子をこちら側に向けた。
「え?」
初めて拝む魔王の姿。
オレオは無意識に聖剣の構えを落とした。
「子供?」
魔王の姿は、まだ物心がついたばかりの少年のものであった―――