忘却の勇者
「君にはアモール帝国の方を任せたはずだが?」
「もう終わりました」
「そうか。ところでライン賢者とジーネ賢者、二人の魔力が探知出来なくなったのだが……」
黒い眼差し。疑念の瞳。
「サイ賢者。これ以上私を失望させないでくれ」
老父は、イアン賢者は小さく溜息を溢す。
アモール帝国の一方的な休戦条約破棄。
アモールの先遣隊が領海に侵入したという情報を受け、イアンはサイを現地に派遣した。
無論、敵軍勢の殲滅のため。
同時に残りの四聖官にも独自の任務につかせていたのだが、数時間前から定期連絡が途絶えた。
まさかとは思ったが、イアンの想像する最低の結末となったようだ。
サイの裏切り。否、裏を返せば裏切ったのは―――