忘却の勇者

サイは衣服についた粉塵を軽く払い、眼深く被ったフードからイアンを視界に入れる。


瞳は見えぬが、怒りに満ちた視線はヒシヒシと伝わって来る。


「失望? 貴方は最初から私に期待などしていなかったはずだ」


「していたさ。だからこそ君は最年少賢者となり、四聖官に任命された。これ以上の期待はないと思うが?」


「私にかけられた期待は、賢者としてではなく抑止力の方だろう?」


「……なにもかもお見通しというわけか」


不穏な空気が二人の間に漂い始める。


しらを切るのも限界か……。


半ば諦めイアンは言う


「魔王の一件を黙っていたのは謝ろう」


「認めるのだな」


「認めるとも。禁書の封を解き、魔王を復活させたのは私達だ。だが君も暗に気付いていたはずだ」
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