忘却の勇者
なぜ奴がこれを? それ以前に、この短時間で喪失魔術を発動させたのか?
イアンの脳内に疑問符が浮かぶ。
だが今はそれどころではない。
この場を逃れることが出来なければ、一片の肉片も残らずあの世逝きが確定する。
「若返りが仇となったな」
指を鳴らす。
無数に展開された鮮血の刃は、イアンに向かってその切っ先を突き立てた。
―――のように思えた。
「複数の喪失魔術か」
背後から声。
手の平に魔力を込めて、振り向き様に背後に立つ人物へそれを放つ。
だがそれはあっけなくかわされてしまい、サイの左頬に鋭い蹴りが当てられた。