忘却の勇者

もしもイアンが同じことをすれば、今頃魔力が枯渇し野たれ死んでいただろう。


歴代最強の名は伊達ではない。


だがしかし、いくら化物染みた能力の持ち主でも人の子には変わりない。


永遠の命などないように、魔力にも必ず限界がある。


喪失魔術の三度も発動させてなお、サイに余力があるとは到底思えない。


現に彼の攻撃は、イアンにほとんど通じていない。


「サイ賢者。君は実に勇者な魔術師だ。複数の喪失魔術を発動させなお、こうして全盛期の私と互角に渡り合っている。
だが今は時間が惜しい、私はこれからこの国を立て直さなければならないのでな」


床を踏みつけると、サイの足元に魔法陣が浮かび上がる。


魔力の著しい消費は判断力を低下させたようだ。


一瞬の迷い。戸惑い。


空色の光を放つと、陣の円に沿うように空色の壁が天に昇る。


強力な防御魔法。
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