忘却の勇者
本来はあらゆる敵意から術者を守るための結界が、敵意そのものを封じ込めている。
魔力を結界の外に放つことは出来ない。
無理に結界を破壊しようとすれば、自身にもその余波がくる。
「どういうつもりだ?」
だが逆に、イアンもサイに攻撃することはできない。
時間稼ぎをする意味はイアンにはない。
イアンは口元に冷笑を浮かべると、懐から一冊の分厚い本を取りだした。
魔力を帯びた古びた魔法書。
見覚えがあるその形に、サイの頬に一筋の汗が伝った。
「貴様も二冊目の禁書を……」
「私も昔は天才の名を欲しいままにしてきたのだ。伊達に歳は喰っていない」
禁書を開くと、金色の文字が浮かびあがる。