忘却の勇者

「って、こんなことしてる場合じゃなーい!」


駒をグチャグチャに掻き乱した。


小さな悲鳴を上げる王。


もう少しでチェックメイトだったのにと、不満の声を漏らす。


「子供相手にムキになるとは、これだから勇者の一族は嫌いなのじゃ。戦闘狂の筋肉馬鹿めっ」


「見た目は幼児でも実年齢はそうとうイッているでしょう? それに僕は和の国のチェスは初めてなんです。勝てるわけがないでしょうに」


「じゃあ本家本元のチェスならいいのじゃな?」


そう言うと、魔王は空間の狭間からチェス盤を引っ張り出した。


テーブルに置いて、駒を指定の位置に配置する。


よーし、本物のチェスならなんとかなるぞ。


「って、だからこんなことをしてる場合じゃなーい!」


またまたチェス盤をひっくり返すと、魔王に睨みを利かせる。
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