忘却の勇者

しかも、魔物を統率する魔王が反逆を企てることは絶対にありえない。


魔王を倒すことができる勇者は名目上存在しない。


唯一の対抗手段である喪失魔術も、そのほとんどが四聖官の手の内にある。


これほどまでに絶対的な戦力は、世界中を見渡しても存在しないだろう。


世界一の魔法国家と魔王軍が統合すれば、世界征服という夢物語も現実味を帯びてくる。


「人間というのは傲慢だな。一国の主では飽き足らず、あろうことか神になろうとする。歩を弁えぬ愚かで幼稚な生き物だ。八十年足らずという短い命をもっと有効に使えばいいものを」


ため息混じりで答える魔王。


見た目とは違う上から目線な態度に、オレオは僅かだが癪に障った。


「人の命を奪っている者の発言ではないですね。神になろうとしているのは貴方も同じでしょうに」


「勘違いしてもらっては困るな、若き勇者よ。我々は攻められたから反撃したまで。君達の言葉で表すならば“正当防衛”というやつだ」


「正当防衛? 人間社会に攻め込んできたのは、魔王軍じゃないか!」
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