忘却の勇者
切っ先が喉元に触れる。
だがオレオが手にしている武器は愛用している黒刀。
このまま喉元を引き裂いても、魔王に致命傷すら与えることは出来ない。
それを理解しているのか、魔王は顔色を変えずに淡々と言葉を紡ぐ。
「どちらかが先に攻めてきたのかなど、この際どうでもいい問題だ。戦争の引き金などふとしたことがきっかけで起こる。きっかけとすら認識できぬほどの小さなきっかけでな。
水掛け論に時間を割くつもりはないし、両者の言い分が合致していない以上、結論など見出せるはずがない。だから童は今現在の、事実のみをこれから告げる」
「事実?」
「嗚呼、童はこれ以上の戦は望んでおらぬ」
「そんなデマカセを信じるとでも思っているのか」
「魔族は嘘などつかぬ。考えてもみろ、魔物の王である童が低俗な下等生物である人間に良いように手駒扱いされているのだ。これほどの屈辱はないと思わぬか?」
魔王の言い分も少しだけ理解できる。
敵対している人物に無理やり復活させられ、挙句の果てにその支配下に置かれている。