忘却の勇者
決着

結界が解かれると同時に剣を引きぬくと、サイの身体は崩れ落ちた。


鮮血の水溜りが広がり、イアンの足元にまで浸食する。


いくら最強の賢者とはいえ、心臓を貫かれて生きていられる人間などいやしない。


魔聖剣を解き、骸となったサイを見降ろしながら、荒い息を整える。


魔力を使い過ぎた。


右手を眼前に持ってくると、その手は皺が目立ち老父の物となっている。


死者蘇生の力が弱まっている。


短期決戦が功を奏した。


このまま長期戦に持ち込めば、やられていたのはイアンの方であっただろう。


精根尽き果てたというように、イアンは膝をついて額の汗を拭う。


死者蘇生の術を解くと、イアンの身体は淡い光を放ち、光が治まると元の姿へと戻っていた。


休んでいる暇はない。まだ大きな仕事が残っている。
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