忘却の勇者

四聖官のサイが、自らの命を呈して民を守ろうとするのかを。


「無意味だと言いたいのか。愚問だな」


イアンの問いを一生に伏すと、フードの奥から覗く冷徹な笑みが、その場に蹲るイアンに注がれる。


「魔王が復活した際、初めに被害にあった村を覚えているか」


そんなもの覚えているわけがない。


魔王の管理はイアンがしていたが、国の被害が少ない都市から遠く離れた農村地を襲うよう指示していただけで、どの村を襲うかは魔王に全て委ねていた。


まして十年以上前の出来事など、脳裏の片隅にすら残ってなどいない。


覚えてはいない。だが、ある仮説が浮かび上がる。


「まさか……その生き残り……」


「ご名答。クズだゴミだと罵った相手に命を委ねられている気分はどうだ?」


「復讐の、つもりか……!」


「復讐ならとっくの昔に仇をつけているさ」
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