忘却の勇者
魔王に深手を負わせたという情報を流し魔王を十年間潜伏させた理由は、先代勇者の“尊い犠牲”を使った国内情勢の一時安定化と国際社会での地位向上。
そして魔王の脅威と成り得る勇者の血筋を一掃するために要した期間が、この十年だったのだろう。
「もう止そう。時間の無駄だ。君が力を蓄え精進すれば、いずれこの結界も破ることが出来るだろう。それまで君が生き延びることが出来ていればの話だがな」
「うるさいっ……!」
時間なんてないんだ。
こうしている間にも、戦争は続いている。
元をたどれば魔王の存在がこの戦争の引き金だ。
だったら魔王の首さえ手に入れれば、一時的とはいえ戦争を止められるかも知れない。
「絶対に結界を破る……!」
黒刀を振り下ろすが、オレオも刀も限界だった。
刀身は折れ、漆黒の欠片が宙に舞う。