忘却の勇者

魔王は笑みを送る。


なんの感情も籠っていない、無機質な笑みを。


「実に残念だ。童は今日も死ぬことが出来なかった」


「……嘘を付け」


「嘘じゃないぞ。童の心は憂いの気持ちで一杯だ」


いけしゃあしゃあと言ってのける。


それでも反論するだけの体力も気力もなく、オレオはその場に崩れ落ち、息を荒く表情を歪めた。


―――結局僕は、また何もできないのか。


魔王に傷一つ負わせることも出来ないまま、多くの人々が無意味な争いを続け死に絶えていく。


その様を見守ることしか出来ないなんて……。


でも、こんなところで手を拱いている場合じゃないんだ。


マリとレインを助けに行かなくちゃいけない。
< 543 / 581 >

この作品をシェア

pagetop