忘却の勇者

手元にある武器は聖剣のみ。


だが聖剣は魔王を倒すための唯一無二の切り札。


結界の強度を考えると聖剣は使えない。


だとすれば残るのは己の身体のみ。


いくら勇者の身体とはいえ、喪失魔術に素手で立ち向かえればひとたまりもない。


それはオレオ自身が身を持って体感しているが、感情を飛ばした今の彼には理性など存在しない。


ただ目の前の障害物を破壊する。破壊衝動しか残っていない。


結界に近づき、オレオは無言で右腕を振り下ろす。


枷の外れた勇者のパンチは、結界に接触した瞬間辺りに衝撃波を発生させた。


原始的な攻撃。


だがその衝撃と威力は、結界内にいる魔王も肌で感じ取っていた。


空気が震え、結界が悲鳴をあげる。

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