忘却の勇者

どこをどうしたって、可愛らしさの欠片も見つけられない。


夢魔はもはや虫の息。


短刀を一本一本引き抜いているが、立っているのがやっとといった所だろう。


コーズはポーチから両刃の短剣を取り出すと、ゼーハーと荒い息を零す夢魔に近づき、刃を夢魔の喉元にあてがった。


「妹を弄んだんだ。楽に逝けると思うなよ!」


「逝く? 地獄に堕ちるのはお前だよロリコン野郎!」


強がりか?


事の成り行きを見守っているオレオだが、血まみれの夢魔から重大なことを思い出し表情を青ざめた。


しまった。大事なことを忘れていた。


夢魔の精神支配魔法の発動条件は―――


コーズの足元に目をやる。


彼が立っている場所は、夢魔が流した血の池の中心部。
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