忘却の勇者
泡沫の安らぎ
薄暗い牢獄には、鉄格子の窓から見える月灯りと、ランプに灯った炎が揺ら揺らと揺らめき光を放っている。
魔力を吸収するという特殊な魔石で作られた手錠。
それを嵌めた男、サイは小さく笑う。
床に座っている少年オレオは、鉄格子越しの笑みに小首を傾げた。
「笑えるとは思わないか。共に魔王を倒したと言うのに、私はこの様だ。望んだことはいえ、少々キツイな」
魔王を倒した後、アモール帝国とネシオル帝国の間に再度休戦条約が締結された。
サイの活躍により、アモール帝国の最高戦力である鉄血の十三騎士は事実上の敗北。
世界に二隻しか存在しない飛行艇を一隻失い、貴重な軍事戦力である軍艦も一挙に失った。
ネシオル王国も、国の中枢組織であった四聖官を失い、国力の低下を招いた。
四聖官という絶対的な軍事力を失ったネシオル王国の敗北は、よもや決定的。
だがそれはアモール帝国も例外ではなく、大国としての威厳と発言力を担っていた近代兵器を失った今、第三勢力の介入が危惧された。