忘却の勇者
腐った道筋
「では、サイ賢者はわざとあのようなパフォーマンスを?」
断崖絶壁の崖の上。
潮風に吹かれ靡く黒髪と白髪は、塩分を含んだせいか束になって靡く。
磯の香りを感じながら、隻腕の幼い少年が車椅子に腰かけた老父に尋ねた。
「サイが死罪になれば、この国を守るモノは何一つなくなる。だから奴は、第二の魔王になる道を選んだ」
第二の魔王。世界の敵になるという道。
その覚悟はきっと、自分が抱いている物とは比べ物にならないだろうと少年は思う。
「サイの実力は敵対関係にある連中が一番わかっている。彼が世界共通の敵になることで、敵対諸国は連合を組み、ネシオル王国もサイに関する情報を提供することで軍事連合に参加することが出来るはずだ」
「わざと捕まったのも、各国の重鎮が集まる場で事を起こし、世間に知らしめる必要があったから?」
「そう、世界に宣戦布告するためには格好のステージというわけじゃ」
「だとしても……」