忘却の勇者

風に靡くそれはパタパタと揺らめいて、質量を感じさせない。


「儂のせいで、辛い思いをさせてしまった」


悲しみの眼で見つめる先には、かつてそこにあった身体の一部を映している。


老父の力を持ってしても、失くした腕を再生させることは出来なかった。


「元より覚悟の上でした。命があるだけで儲けものです」


先の戦いで何があったのかは、老父は知らない。


少年は多くを語ろうとはしなかったが、その傷を見ればどのような状況であったのかは容易に想像できる。


自分のせいで、少年を危険な目に合わせてしまった。


元より戦う事は少年の意思ではあった。


老父は何度も止めたが少年の意思は固く、老父もしぶしぶ許可を出した。


とはいえ、相手は魔王と魔王軍。少年の思いを汲み取りたくとも、普通ならば許可など出さない。


だから老父はもしもの時のために、自身の持つ禁書にありったけの魔力を接ぎ込み少年に手渡した。

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