忘却の勇者

アモスの前に移動し、腰を下ろして目線を合わせる。


「親を最後まで看取るのが、子の役目です」


その瞳は優しさに満ち満ちていて、驚きと衝撃でアモスの緩み切った涙腺から一筋の滴が零れ落ちた。


少年の秘めたる想いは、老父の心を邂逅する。


―――これじゃあ、死ぬに死ねないじゃないか。


「レイン、二度と日の目は見れぬぞ。勇者にも会えなくなる。それでもいいのか?」


「何を今更」


レインは言う。


「元より死んでいた命です。だから二度目の死は、父の元で逝かせてください」


「……馬鹿な子だ」


「子は親に似るものです」


言葉に含んだにこやかな笑みは、彼らの行く末を考えれば痛々しいほどに明るい。

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