忘却の勇者

会議が始まるとケイの部下が現れ、ケイはこの場から去って行った。


去り際に握手を求められ、オレオは快くケイの手を握る。


なんてことのない握手だが、これが和平への第一歩になることをオレオは直感する。


バルコニーに一人残され、オレオはコートの右ポケットからある物を取り出した。


漆黒の鍵。コーズから渡された彼の形見。


何もない空間に鍵穴を見立て、魔力を込めながらふと頭に浮かんだ言葉を呟きながら鍵を回す。


「開け珍獣の扉・獣兎」


鍵の先から魔法陣が展開され、そこから黒い物体が飛び出した。


オレオよりも背丈があるそれは、漆黒の毛皮を纏い、首周りにはふさふさとした鬣(たてがみ)が生えている。


口元には鋭い犬歯が覗いているが、ピンッと伸びた長い耳は間違いなくあの動物。


「ウサギの召喚獣……」


巨体に手を伸ばすと、ふかふかな毛皮が左手を飲み込む。
< 577 / 581 >

この作品をシェア

pagetop