忘却の勇者
召喚獣・獣兎は、主の姿を真ん丸な瞳で確認すると、耳を垂らしてその場に伏せた。
服従の姿勢。オレオを主と認めたらしい。
愛くるしい巨大な生き物に自然と頬が緩むが、その表情は一瞬で引き締まり、右手の中にある漆黒の鍵を強く握りしめた。
「まずはマリを探しに行かないとね」
獣兎に話しかけるが、それは何も答えてくれない。
あの戦いが終わった後、マリの姿を見つけることは出来なかった。
辛うじて片腕を失ったレインと合流することは出来たのだが、マリの消息は依然として不明のまま。
でもオレオは諦めてはいない。
もし諦めてしまったら、マリが死んだのだと認めてしまったら、オレオの記憶からマリの存在が消えてしまう。
彼女の記憶が消えるのは嫌だ。それに彼女の記憶が消えてしまったら、オレオとコーズの繋がりも断たれてしまう。
共に戦ってきた仲間の、支えてもらった友の記憶が消えるのは、オレオにとっては死よりも恐ろしいことだ。