忘却の勇者

掠れ声で勝利の宣言。これで勝負はついたかのように思われたが……。


―――オレオは無言のまま、一歩一歩夢魔に近づく。


術が効いていないだと!? 馬鹿な! そんなことがあるわけない!


「精神支配の魔法は膨大な魔力を使用する術。一度に複数の精神を支配することはできないし、集中力が分散する分威力も弱まる」


オレオは目の前までやってくると、黒刀を引き抜いた。


黒刀によって繋ぎとめられていた身体は、ズリズリとその場へ座り込んだ。


「それに僕は、魔法が効きづらい体質なんだ」


「きっ、さまぁあああ!」


最後の抵抗。右手をオレオの首元に伸ばすが、疾風の如く黒刀を払い、夢魔の右腕を切り落とす。


「うあっ! ……ッくそぉおおおお!」


左足の太ももに突き刺さったナイフを引き抜くが、振りかぶった瞬間、黒刀の切っ先が左腕を突き破る。
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