忘却の勇者

ふと、掌の鍵を見つめた。


漆黒の異形な鍵。コーズの家に大体伝わる大切な家宝。


このまま自分が持っていて良いわけがない。


それにまだ戦後のゴダゴダに巻き込まれ、彼女に会うこともコーズのことを知らせることも叶わなかった。


会わなくてはいけない。


マリの捜索よりも、和平交渉よりも、まずオレオがやらなければならないことがある。


「ミウちゃんにこれを返しても、獣兎は存在して……」


言葉の途中で停止した主人に、獣兎は顔を近づけて鼻をヒクヒクと動かしている。


オレオは掌にある鍵に視線を落とし、覇気のない声色で言葉を紡いだ。

< 580 / 581 >

この作品をシェア

pagetop