忘却の勇者

言葉が詰まる。


無理に喋らなくていいよと制したが、ミウはかぶりを振って続きを語る。


「私とお兄ちゃんはなんとか逃げ出したけど、弟は逃げ遅れて……。お兄ちゃん自分を凄く責めてた。俺のせいだ。俺が守らなくちゃいけなかったのにって」


大切な人を守ることができなかった。


その悲しみと悔しさは計り知れないものだろう。


オレオはマグカップを強く握り締める。


まるでなにかを忘れ去ろうとするかのように。


悪寒が走る。


明るい好青年のコーズにそんな過去があるとは露にも感じなかった。


感じさせないほど、彼は明るく振舞えるほどの強さを持っていた。


けれどなぜミウは自分にそのことを話すのだろうか?


その疑問はすぐに解決することになる。
< 75 / 581 >

この作品をシェア

pagetop