忘却の勇者

ということは、このラクダは野生ではなく飼い主がいるということだ。


「なんで家畜のラクダが?」


オレオは首を傾げるが、オレオは天の恵みといわんばかりに両手を挙げる。


「砂漠越えでもしてた商人の手から逃げ出したんだろ。やったー! これで楽できるぜ!」


コーズはラクダに向かって駆け出すが、オレオはどこか浮かない表情をしていた。


このご時世で砂漠越えをする商人などほとんどいない。


仮にいたとしても、生命線であるラクダをうっかり逃がしてしまうようなミスを犯すだろうか。


なんだか事件の香りがしてならない。


一抹の不安が脳裏を過ぎる。


勇者の勘というのは、えてして未来予知に匹敵する能力なのかも知れない。


大声を上げながら手招きするコーズ。


オレオは駆け足でラクダの元へ赴くと、ラクダの足元には一人の男性が倒れていた。
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