かさの向こうに縁あり
明るい空に反するような気分だ。


――なんだか悲しくて切ない。


男性の声を聞いていると、そんな気持ちが無意識に湧いてくる。



『医者には行ったの?』



どうしてこんな会話をしているんだろうか。


確か昨日も、私が咳をした時に心配されていた気がする。

もしかして、咳が……?



ううん、と首を横にゆっくりと振る。


それは私の意思ではなく、誰かに操られているような……

いや、私がまるで違う人間のような気さえした。



『駄目だよ、行かないと。……行ってもらわないと、僕が困る』



そう言って、男性の腕が背中に回される。

そっと抱き寄せられると、私は男性の胸に顔を埋めた。


男性の温もりがリアルに伝わってくる気がする。

温かくて、安心させてくれるような。



『もしものことがあったら……どうするの?』



哀愁を帯びた声で、耳元でそう囁かれる。


自分ではない気がするのに、何故だかふいに泣きたくなった。



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