かさの向こうに縁あり
荷物を取りに行くにしても、問題が山積みなわけで。


苑さんの家は、夜中で行き当たりばったりだったから覚えていない。

帰りは、平助に強制連行されたような感じだったから、周りの景色を全然見ていない。


それなら取りに行くとか言うな、って感じなんだけど。



平助は「ああ、祇園さん?」と言っては、私の紙と筆を取った。

丁寧に地図を描いてくれた。



「こんな感じ、かな。迷ったら茶屋の人とかに聞くといいよ」



そう言いながら、地図を描いた分だけ紙をちぎった。

そして渡されたそれを受け取り、軽く頭を下げた。


下げた頭を元の位置に戻すと、平助の視線とぶつかった。


なんかよく見つめられている気が……


と、少し身を後ろに引いた瞬間、彼は口を開いた。



「ねえ、前から思ってるんだけどさ……」



その声音こそ普段の平助だけれど、視線は普段よりも弱かった。

ぼーっとして、何も考えていないような瞳。


何か重大なことを言うような瞳ではなかった。



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