かさの向こうに縁あり
「妃依ちゃんの声、聞いてみたいなあ……なんて」



それなのに。

それなのに平助は、私の目を見開かせるほどの台詞を私に与えた。


驚きのあまり、数秒間目を見開き続けた。


そんなこと……平助が言ったことを、私は微塵も思っていなかったことに。

そして、彼の口からそんな台詞が出てきたことに。


その二つに驚いて、私はびくともせずに目を見開いたまま平助を見つめていた。



自分が声が出ないんだってこと、知らぬ間に忘れてた――



「あっ、ごめん!気にしないで!」



あまりにも私が目を見開いていたからか、平助は焦った様子でそう言った。

何故か、平助も動揺を隠しきれていないよう。



「じゃあ気をつけて行ってきてね。また後で!」



はっとして手を伸ばすよりも早く、彼は障子を荒々しく閉め、部屋を出ていってしまった。


何をそんなに慌てて……

何に動揺してたんだろう……?


行き場のない伸ばしかけた手を、私はゆっくりと膝の上に戻す。



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