かさの向こうに縁あり
ーー夢の中の“私”は死んだ。



ということは、もうこの連続した夢を見ることはない、ということになるのだろうか。


でも涙が頬を伝う感触を、にわかに、ではなく確かに感じる。

おかしい、私は、もうすでに死んだはずだ。



私が生きているとすれば、どういうことか予想はつく。


……私が実際に泣いている、ということだ。



そうか、と思って瞼に力を入れようとする。

すると、意外にもすんなりと、堅く閉ざされているように思われた瞼は開いてしまった。



そうだ、あれは夢だ。


現実のようだけれど、“村瀬 妃依”という名の“もう一人の私”だったけれど、ちゃんとした夢だったんだ、あれは。



急に状況を確認したくなって、私は寝たまま辺りを見渡す。


陽を受けて、うっすらと明るくなっている障子。

床の間には、綺麗に美しく活けられた花と、草書と思われる書体で書かれた書の掛け軸。

照明のついていない天井。

いつもベッドで寝ていた私が、布団で寝ているというこの状況。



全てが見えるし、全てを感じることができる。

今見たもの全てが、何よりも生きている証だろう。



ーーああ、生きているのか。



そうと分かると一安心して、頬の涙を着物の袖で拭う。


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