かさの向こうに縁あり
徐々に落ち着きを取り戻してきたら、ゆっくりと起き上がる。

今、何時なんだろう、と思いながら。

いつもより遅いのは、なんとなく感じられた。


それは何故かと言えば、障子の下へ改めて視線を移すと、膳が置かれていたからだ。

気がつけば、お味噌汁やおかずのいい香りが部屋に充満している。


いつもであれば、ちょうど平助が朝ごはんの膳を持ってきてくれる頃に目が覚めるというのに。


今日は、何故遅く起きてしまったのだろう。

一度、平助とちゃんと話がしてみたかったのに。


布団を畳み、隅の方に寄せると、膳を部屋の真ん中辺りに置き、その前に座る。



「いただきます」



誰と食べるわけでもないけれど、一応礼儀だ、手を合わせてそう言う。


まずはお味噌汁。

その後、ご飯やおかずにも手をつけ、どんどん口に運んでいく。


とてもおいしいけれど、私は思案しながら食べてしまう癖がある。

だから、どんなにおいしい物であっても、時には味に関心を持たずに食べてしまうこともある。


次々に箸を進めていくうちに、徐々にそんな感じになってきた。


すでにお味噌汁はなく、お椀の中身は空っぽだ。

気づいたらなくなっている。


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