かさの向こうに縁あり
「ああ……あそこですね、ありがとうございます」



そう言ってぺこっと頭を下げる。

せっかくお礼のお辞儀をしているというのにも関わらず、男性は私が頭を上げたときにはすでにこちらに背中を向けていた。


変な人だな、と、ほんの一瞬の関わりだけでそう感じた。


彼の背中を数秒間見つめてしまっていたけれど、こんなところで時間を無駄にするわけにはいかない。

分かったらさっさと副長さんの部屋に突撃しよう、と足を進める。


庭の椿の木が真横に位置する場所に来たのを確認して、私は縁側に正座した。



「失礼します、村瀬 妃依です。こちらは土方副長のお部屋でよろしいでしょうか」


「ああ、ひよこか。入れ」


「失礼します」



断られるかと思ったけれど、案外あっさりと入れてくれるようだ。

さっと障子を開け閉めして、文机に向かう副長さんの背を見る形で腰を下ろす。


彼は紙に何かを書き付けていたようだけれど、筆を置いてこちらを向いた。


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