かさの向こうに縁あり
「何の用だ、ひよこ」


「妃依ですってば」


「……いいからさっさと用件を述べやがれ」



私がいらっとした直後、副長さんも眉間に皺を寄せる。

お互いが殺気立つ中、私は言われた通りにさっさと用件を述べた。



「気分転換に、屯所の外へ散歩しに行きたいんですけど……許可していただけますか?」



そう言った直後、彼は表情も変えずに私をじっと見つめた。

なんだなんだ、と思いつつ、私は唾を飲むことすら忘れ、息まで止める。


疑われているのは分かっている。



そして暫くして、副長さんは目を瞑り、ふうっと息を吐く。

ほぼ溜め息だろう。



「いいだろう。ちゃんと帰ってこいよ」



その一言で、「はあ、よかった」と変な緊張から解かれる。

でも、文机に向かいかけた副長さんが、再び私に向き直る。

何かと思えば、真剣な顔つきだった。



「だが一つ……気を付けておけ」


「……何をですか?」



何をそんなに真剣になって、と思いながら、私は次の言葉を待つ。



「お前がーー」



次に彼が言ったことを、私はすぐには理解できなかった。

ただ、この人の言葉には極力従っておこう、とだけ思って、黙って頷いておいた。


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