かさの向こうに縁あり
私が暫く言葉を失っていると、平助は重ねて謝った。



「……本当に突然でごめん」


「言ってくれなきゃ困るよ、私……男所帯に、女一人なんだから……」



平助は、「うん」と頷きながらも申し訳なさそうにしていた。


私が女であるということを、女はあの屯所の中で私だけだということを忘れていたわけではないと思う。

けれど私が、平助がいないとあの檻の中で一人になってしまうとは思われていないんだろう。


たしかに副長さん、原田さんや尾形さんや尾関さんとは話せるけれど、そういうことではない。


親切に、何も言わずにお世話をしてくれる平助が必要なんだってことを、彼は分かっていない。

男の人って、どうして女の気持ちを分かってくれないんだろう。


涙が出そうになるのを、必死で堪えた。

唇を軽く噛む。



「妃依ちゃんとの関係を……たった数日なのにちょっと深くしすぎたね。ごめん」



そう言っては、頭を深く下げた。

なんでそこを謝るの、と虚しくなる。


謝られたら、私はここにいてはいけない気がしてしまう。

この時代に、この人、この人達と出会わなければよかったと、つい後悔してしまう。


いや、後悔というのとは少し違うかな。

私は選んでここに来たわけじゃないんだから。



けれど、こんなことになるのなら、助けなければよかったと、きっと平助はそうは思っていない。

それだけは、これまでの態度を見ていればなんとなく分かった。


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