かさの向こうに縁あり
でもこの選択は、平助を信じているからこそ、だ。

副長さんを信用していないわけではないけれど、私は平助を信じて、あのことが嘘だと思うことにしたんだ。



彼ならきっと脱隊する日に、仏光寺で会おうなんて私に言ってこないはずだ。


いくら親しくしている者だと言っても、本来優先するべきものが何なのか、あの人はちゃんと分かっている。

朝起きた時はもちろん、副長さんに相談する前に縁側で出会った時も、いつでも職務を優先していた。

あの人はそういう人だった。



平助なら、信じられる。



だから、この選択こそ間違いじゃないはずです、副長さん。

平助の次に信頼するあなたに責任を取ってもらうようなことには、断じてしませんから――


右を振り向いて、誰にも気づかれないように、誰もいない路地にふっと微笑んだ。



“お世話になった人に迷惑をかけない。

人に迷惑をかけないように、一人で手に負えないこと以外はできるだけ自分で。”


これは母からの教えで、私は小さい頃から何か他人に迷惑をかけたりすることがある度に、そう言われて育ってきた。


それはきっと、私が今一番守らないといけないことだと思う。

お世話になった人は、大切にしたいんだ……



そう思いながら、手にしている紙の切れ端に目をやる。

以前平助に、八坂神社までの道のりを書いてもらった紙だ。

握り締めすぎて、ちょっとグシャグシャになりつつある。


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