かさの向こうに縁あり
「さてと……」



次に。

家が見つかったとはいえ、中に苑さんがいるかどうかは保証できない。


そして、これはどう声をかけるべきなのか。

戸を叩いて声をかけるのか、戸を開けてからそうするのか。


なんて、至極どうでもいいことですぐに悩み始めるから、私ってつくづく面倒くさい人間だ。


はあ、と溜め息をつきながら、バンバン、と聞こえるようちょっとだけ強めに戸を叩き、「苑さーん!いますかー!」と声をかけた。


すると、一呼吸分置いて、中から足音と声が聞こえた。



「はーい、どなたかしら?」



そういえば、私が声が出るようになってから、苑さんには会っていない。

私がどんな声をしているかなんて、知らないんだ。


ちょっと何だか、まるで初めて会うかのようなドキドキする対面だ。


ガラッと戸が開けられる。

少しかしこまって立っていると、驚いた様子の彼女が現れた。

さっきの声は、見知った顔の女が出したものだと、瞬時に気づいたからだろうか。



「あの……苑さん、こんにちは」


「妃依ちゃん……?」



やはり彼女はすぐに満面の笑みを浮かべ、そして私に抱きついてきた。

つい、「うわっ」と短く声を漏らす。

それほど思いもよらないことだったし、それに勢いが良すぎて。


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