かさの向こうに縁あり
「声!出るようになったのね、よかった!」



でもちょっと嬉しかった。

私に会うだけでこんなに喜んでくれる人がいるのは、私にとっても精神面での支えになりそうな気がした。



「それにしても、またどこに行っていたの?……この間の男の人のところ?」



喜びも束の間、苑さんは勘繰るように問うてきた。

いくら苑さんが、平助が新選組の幹部だということを知らなくても、彼らをよくは思っていない彼女には答えにくいし隠したいことだ。

けれど、きっと“この間の男の人”と一緒にいたであろうということを、分かって聞いているはずだと思った。



「まあ……はい。あ、でも、お世話になってるっていうだけで、深い関係ではないですよ」


「あら、そうなのね」



関係性を深く問われる前に、予防線を引いておくことにした。

苑さんは、私が何も説明していないがために、私がお世話になっていた“その人”が組織ではなく個人だと思っている。

その認識をうまく利用させてもらうことにした。



「何はともあれ、とりあえずよかった!貴女、どこに行っちゃったのかってすごく心配したのよ。文送ろうにも居場所も何も知らないもの」


「いや、あの、本当にごめんなさい……心配していただいて、すみません、ありがとうございます」


「いいのよ、そんなに遠慮しなくて」



ふふふ、と笑う苑さんにつられて、私も微笑を浮かべる。


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