かさの向こうに縁あり
本当に心配されていたようで、何だか申し訳ない気持ちで一杯になった。

けれど、この人はその心配がさも当たり前にすることのような態度だということに気がついた。

これが普通なのかもしれないけれど、たった数日前知り合った私に対してもそれは変わらないなんて。


苑さんはぱっと体を離すと、彼女は心底安堵したようで、まだにこにことしていた。



こんなに驚くなんて、そんな友達すら現実の世界ではいなかったのか、とちょっと寂しく感じた。

それと同時に、苑さんなら快諾してくれそうだな、と思って、今日来た理由でもある、あることを打ち明けることにした。


突然の発言に驚かれるかもしれないけれど、どう返してくれるかな。



「あの……これから、一緒に暮らしてもいいですか?」



その瞬間だけ、少し吹いていた風が止んだ気がした。


屯所を出た時の考えを、ちょっとだけ改めたんだ。


やっぱり戻れない、この後が怖くて。

副長さんのお説教よりも怖いものが、今はあるから。



妙な静けさの中、苑さんはそれまで浮かべていた笑みをさらににこっとさせて私に向けた。


ああよかった、これで私はこの時代で生きていける。

誰にも狙われないで済む……


そう思って私が安心しきり、苑さんが頷こうとした瞬間。




「ーーやっぱり、ここにいた……!」




私は思わず目を丸くした。


ふいに右から、息遣いの荒い男性のそんな声が聞こえてきたんだ。


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