かさの向こうに縁あり
私の脳では、それは聞き慣れた声としか判断してくれなかった。

そんなこと、ありえないのに。


嘘だ、と思いながら、声がした方を恐る恐る見た。

苑さんは先にその人を見て、「あら」と言った。


ということは――




「へ……平助……!」




やはりその声は、彼の――平助のものだった。



走ってきたのだろうか、この季節だというのに額にうっすらと汗を浮かべ、肩を大きく上下させて呼吸をして、少し離れた所に立っている。


そして、これまで見たことないような怖い表情をしていた。



正直、「え、なんで」という気持ちの方が嬉しさよりも断然勝っていた。

むしろ嬉々とした感情なんて、これっぽっちもなかった。


私を探してここに来ることなんて、一つも想像してなかったから。

それに、平助がここに来たってことは、やっぱり“あの男性”にとんでもない誤解をされていると彼も感じたからなんじゃないだろうか。



彼の姿を見た途端に、平穏が滝のような音を立てて崩れていった気がした。

ザーっと、一気に冷たく流れていく。


私が描いていた、「余生は女二人で楽しもう計画」は砂上の楼閣だったのだろうか……?


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