かさの向こうに縁あり
「どうして、ここに?仏光寺じゃなかったの?」



足早に近づいてきた彼に対し、ひとまずそう問うことから始めた。

私はとりあえず問わなければ気が済まない性格みたいだ。



「あの人はそこまでしてたのか……」



顔を背けて呟くようにそう言うと、平助は分かりやすくチッと舌打ちをした。

こんな姿は今までに見たことがなかった。


仏光寺で会おう、なんて言ったのは、やはりあの男性だったんだ。

平助を信じてよかった……



「いいから、早く屯所に戻ろう。言いたくないけど、妃依ちゃんは俺の仲間に、土方副長と俺の間で情報を行き来させている“間者”だと疑われてるんだ」



やっぱりそうなんだ。

“カンジャ”なんて言うけれど、夢の中の私の状況とまるで違うじゃない。

それとこれとは関係ないにしても、なんて大変なことになったんだろう。


平助が怖い顔をして舌打ちまでするような状況なんだ、いつも平静な彼がこうなるとは、よほどのことが起きているようだった。

なんて、他人事のように感じる部分もある。


何も言葉を発さない私に、平助は矢継ぎ早に話してきた。



「中村から報告を受けた。妃依ちゃんが“服部(はっとり)”さんにつけられてるみたいだって。きっともうすぐ彼が来る……急いで!」



どうやら私に伝言してきた男性は、服部というらしかった。

……なんて感心している場合ではないんだっけ。


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