かさの向こうに縁あり
この非常事態に、また選択を迫られているような気がした。



この場を去っておとなしく屯所へ戻るか、この場に留まって苑さんの家に留めさせてもらうか。


どちらも大差ない選択肢だったら、どっちを選ぼうとそれが正解だったかなんて後になっても分からないものだ。

だからこそ選ぶのはもちろん不安で、加えて若干の恐怖を伴うもの。

そして急ぎの判断を求められる今の状況は、優柔不断な私にはきつい。



「……ねえ、平助」



だからやっぱり、人に聞いてしまう。



「今私が取れる行動って、何かな」



手首に感じる力が、少しだけ弱められた。

どうやら私の質問に答えてくれそうだ。


だめだ、顔を合わせられない、とさっきまで思っていたけれど、平助のその態度を感じて少しずつ顔を上げてみる。


そこにいた平助に、少し驚いた。


先ほどとは打って変わって、困った顔をしていたからだ。

話の分からないヤツだな、なんて呆れられているんじゃないだろうなあ。

その可能性なきにしもあらず、なのが自分で思っておいてなお辛い。


呆れの表情だ、と思っていたのもつかの間、平助は優しいいつもの声色で答えてくれた。



「屯所に戻る以外なら、ってことだよね?それは……」



ああ、これが平助だ――


そう僅かに安心した瞬間。



ザッザッザッザッ――と。

突如、地面を蹴る不規則な音が聞こえてきて、徐々にそれが近づいてきた。


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