かさの向こうに縁あり
私を守るために抜かれたそれは、いよいよ状況は悪くなる一方だということを私に理解させるようだった。


この場に苑さんがいてこれを見ていることすらも忘れている状況の中で、私はただひたすら平助の背中を見つめ続ける。

お互いに、徐々に血の気が引いていくのが分かった。



「妃依ちゃん、逃げて。どこにでもいいから、逃げて!」



私の念力のようなものが伝わってしまったのだろうか、平助がそう叫ぶ。


なんだろう。

この圧倒されるほどの不安は。

体はここにあるのに、頭だけが雲の上にあるような、いや、地面に埋まっているような……そんな不思議な気分。



「これが君に残された最後の選択肢だよ。俺に構わず逃げてくれ!」



私からは平助の背中しか見えない。

けれど、不思議とそう言う彼の眼差し、表情……見えないはずのものが何故か分かる気がした。



ふと、恐怖と不安に包まれていた体が、軽くなっていった。

同時に、寂しくなりもした。



平助と服部という男は、お互いに刀を構えて向き合ったまま、まったく動かない。

殺気のような凄まじい集中力で、この場一帯が別次元にあるような感じだ。



「藤堂君、君とはあまり剣を交えたくはない。分かるだろう?」



何故彼らは動かないのだろうと、頭の片隅で思う。

彼らに対してはそう思うのに、自分は逆に動かなければ、と不思議と思い始めた。


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