かさの向こうに縁あり
必ず見つけてね。

私は知らない場所を行くけれど、きっと平助はこの町のことは私よりも知っているはずだから。


喉奥から何かがこみ上げてきそうで、それをぐっと無理矢理抑えこむ。


それを自分が決断する合図に代えた。


平助の背中をほんの少し、5秒にも満たない時間見つめ、私は重い足を動かして後ろを向いた。

そこではっとして右側を見ると、苑さんがとても心配そうな目で、けれど何かを疑うような目でこちらを見ていた。



「ねえ……ヒジカタフクチョウって……妃依ちゃん、まさか、新選組と関わりあるの……?」



嘘だ、と自分に言い聞かせようとしているのだろうか、間の多い問いだった。

それを聞いて、苑さんが新選組に繋がるキーワードをほとんど知らないと思っていたんだ、と自分の浅はかさに気づいた。

この町の人なら、ましてや旦那さんを新選組によって亡き者にされた苑さんなら、知っているはずだったんだ。


何て答えたら、彼女を傷付けずに済むだろうか。

肯定すべきか、否定すべきか。 



混乱した頭では、すぐにはその判断を下すなんて、到底できそうになかった。

だから、「巻き込みかけてごめんなさい」と言って、彼女に向かって困った顔をして微笑んだ。



もう何も言えなかった。


言ったところで話をややこしくするだけだと思ったからじゃない。

彼女の溢れるほどの優しさが、今は辛いからだ。


でも、これだけはちゃんと言おうと思った。



「――ありがとうございました、苑さん」


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