かさの向こうに縁あり
今向かっている方向にあるのだろう、ということくらいは予想できた。


息を整えつつ、スピードを緩めて一旦歩みを止める。

ふう、と一息、ふた息吐いてから顔を上げ、どこかに聳えているだろう八坂の塔を探すことにした。

特に目印にしてどうするというわけでもないけれど。



「どこかな、っと……」



ぐるっと空を一周見渡すまでもなく、五重塔のような何層か重なっている屋根を見つけられる、と思ったけれど、そううまくはいかなかった。

通りの建物が邪魔をして見えない。


見えないとなれば、移動するしかなく、交差点を左に曲がってみる。

右側を注意深く見ながら進んでみることにした。


町の人に聞くわけにもいかず、キョロキョロしながら進む。

先ほどの通りより少しは人が増えただろうか、奇異の視線を向けられているような気がした。


そんなのには反応せず堂々と、ただ逃げることに集中していた私は、曲がってから2本目の通りを覗き込む。



「あ、れ……だ!」



覗いた通りの真正面には、少し高台に建つ五重塔が――八坂の塔があった。


何故だろう、嬉しいという気持ちがある。

浮き足立った私は、これまでの疲れで走りはしなかったけれど、先を急いで通りに入った。


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