かさの向こうに縁あり
ふとリビング全体に目を向けると、そこにはソファでテレビを見ながらくつろぐ父の姿があった。


あれ、今日は会社休みなんだ、と思ったけれど、よく考えてみると今日は土曜日だ。

基本的に土日が休みの父が今日いることは、何ら変なことではなかったようだ。



「お父さん、おはよう」



テレビに夢中な父に、そう声をかける。

すると、はっとしたように「ああ、おはよう」とこっちを見て返してきた。

私の存在を今確認した、そういう顔をしている。



朝の挨拶はしても、特に話すことはない。


牛乳を注いだコップと焼いた食パンを乗せたお皿を持って自分の席についた私は、父を視界に入れつつ黙々と食べ始めた。

そしてテレビの音声を耳にしつつ、ようやく少し頭の中を整理しよう、という気になった。



――私は昨日、服部という男から逃げて、平助と離れる道を選んだ。


そして八坂の塔を目指し、さらにはその先の山で、平助が見つけてくれるのを待とう……そう思っていた。


けれど、八坂の塔を目の前にした時、安心した私は目をつぶってしまった。

そして次に見開いた時には、こちらの世界、現代で。


“あれ、平助は?
平助はどこへ行ってしまったの?”


私はそれしか考えられなかった。

同時に、そこに至ってようやく、本当にもう会えないんだと悟った。



なんとなく、隊を離れても会える、一緒にいることはできる存在だと、私はどこかで認識していたのだろう。

それは甘かったんだ。


一度スパイ容疑をかけられていたんだ、分離した人に会いに行くという名目で新選組の屯所を出るなんてことは、ただの命知らずのやることだろう。

まあ、私はそれなんだけれど。


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