かさの向こうに縁あり
「ああ、これ?新選組、っていうか、浪士組時代の彼らの話だよ」



「なんだよ珍しいな、妃依が興味もつなんて」と父は続ける。


そりゃそうでしょう。

歴史に興味なんて、これっぽっちもなかったよ。


でもそれは、“これまで”の私。

“今”の私は、知りたがりなんだ。




「……藤堂平助、って人、いい人だったから。知りたいな、って思って」



そう言いながら、口元をティッシュで拭く。

まるで会ったみたいな言葉遣いはできるだけ避けるように心がけたけれど、そんな言葉になった。


平助がいつ生まれで、なんて基本的な情報は求めていない。


私の知らない平助……新選組を離れてからの平助がその後どうなったのかが知りたい。

あの服部との緊張の場を切り抜けて、ちゃんと生き抜いたのかどうかを。


そもそも本当の歴史には、私はいないのだけれど。


なんてことは露知らず、いや知る由もなく、父は真剣に考え出している。



「藤堂平助か……そうだな、歴史はやっぱり現地を訪れてこそ、っていうところもあるから、京都でも行くか?」



悩んだ末に思いついたことは、おすすめの書籍を言うでもなく、彼の活躍した地を訪れるということだった。


なんだかかっこいい父親だな、と思ってしまった。

なんとなく、背中を追ってみたくなった。


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